クルマをぶつけたりキズを付けてしまって、自動車を修理して塗装することを自動車補修といいます。この自動車補修は通常、自動車鈑金塗装工場で行います。当然、直すには塗装もするので塗料を使用するのですが、その塗料の中にも種類が色々あります。古くはラッカー塗料(一般的にプラモデルなどに塗るシンナー臭い塗料)や、主剤と硬化剤を混ぜ合わせて使用する、2液型ウレタン塗料のほかに、現在、主流の1液型、1液型ハイソリッド、そして今後環境問題などの観点から有機溶剤の使用を減らすため、有機溶剤を使用しない次世代塗料の「水性塗料」があります。
■VOC(揮発性有機化合物)排出規制への取り組み■
今までの自動車補修用塗料のほとんどは、有機溶剤(俗に言うシンナー)を使い、塗料の粘度を調整していますが、世界中で地球環境汚染が問題として議論されている今、VOC(揮発性有機化合物)による大気汚染、例えば光化学オキシダント(光化学スモッグ)などを抑制する為に、VOC排出規制が厳しくなりつつあります。
溶剤型の塗料もVOC排出規制の対象となっており、自動車鈑金塗装工場(ボディーショップ)等もVOCの抑制に努めなければなりません。このVOC排出規制は、すでに2006年4月1日より規制が始まっています。現時点では「自主規制」という形で進められていますが、2010年以降は、欧米同様に日本国内でも法規制も検討されています。
ヨーロッパでは、すでに世界に先行するかたちで2007年1月の法規制により、溶剤型塗料の使用は禁止され、水性塗料(クリヤーコートなどの一部は溶剤型塗料)に置き換わりました。今後、国内でも溶剤型塗料の使用に制限が加えられ、将来、水性塗料に変わるときがくるでしょう。
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■自動車業界でも水性塗料が注目されています■
建築塗装や橋梁などに塗る塗料のほとんどは、すでに水性塗料が使用されており、今では溶剤型の塗料はあまり見かけなくなってきました。「ハウスシック症候群」などの問題から、一般家庭用の塗料にも同じことが言えて、ホームセンターで見かける壁を塗ったり、床を塗ったりする塗料にも水性塗料が多く、簡単に手に入ります。実際には水性塗料は、新しいタイプの塗料ではなく、ごく一般的に普及している塗料なのです。そう言う意味では自動車業界は少々遅れを取っているかも知れません。
VOC排出削減のため、国内自動車メーカー各社では、積極的に水性塗料への転換を進めており、事実、トヨタ自動車では、水性塗料使用率が100%になりました。また、補修用塗料も自動車メーカーが水性塗料を推奨していて、トヨタからは純正部品として水性塗料が発売されています。
■自動車補修用・水性塗料は一般的か■
現在、多くのボディーショップでは溶剤型塗料を使用しています。それは、どの塗料メーカーも主力商品が溶剤型の塗料である訳ですから、当然といえば当然です。しかし、ここ数年で塗料メーカーも自動車補修用水性塗料を発売し、ユーザーでも水性塗料を見たり、聞いたりする機会が増えてきましたが、実際には、水性塗料を使っているボディーショップは、そう多くはありません。これだけ地球環境問題やVOC排出規制が騒がれている中ですが、まだ自動車補修用塗料としては普及していないのが現状ですが、今後、水性塗料が主流となる時代が必ずやってくるでしょう。
■触ってみないと分からない■
従来の溶剤型塗料は使った経験があるのでお問い合わせ等があった場合でも対応しやすいのですが、水性塗料となると、全く使った経験がないので、塗料メーカー各社が行っている水性塗料説明会や講習会に頻繁に出向いて、実際に水性塗料に触れる機会を増やし、溶剤型塗料との違いや、特徴、注意する点、メーカーの違いによる水性塗料の違いなど、出来る限り自分の目で見て、手で触って、スプレーさせてもらって確認しないと分からないものです。
■実際に水性塗料を使ってみました■
国産塗料メーカーのデモンストレーションで水性塗料をさわる機会がありました。
それとヨーロッパでは、すでに規制によって溶剤型塗料の使用が禁止されて水性塗料がメインの塗料になっています。実際にヨーロッパ諸国で使用され実績のある外資系塗料メーカーの水性塗料を使わせてもらいました。
■水性塗料を使用するに当たっての基本的な注意事項■
塗料メーカによって、希釈率や使用方法が若干違う場合がありますが、基本的な特性は同じです。
■スプレーガンは水性塗料と溶剤型塗料の併用は出来ません。
溶剤型塗料は油性です、「水」と「油」の相性が悪いので、ガン内部に残っているとトラブルが起こります。
■スプレーガンは水性塗料対応のガンを使用しないといけません。
塗料の通る部分やニードルは、ステンレスなどの錆びない素材を使用しているガンを選択して下さい。
水性塗料対応ガンはメーカーより多数ラインナップされています。
■塗料缶を開封する時は開封する前に必ず充分に攪拌する。
これは、どの様な塗料でも同じことが言えます。
■開封後の攪拌棒での攪拌は、必ずプラスティック(樹脂)製のものを使用し、金属製のものは使用しない。
水性塗料の場合、樹脂製の缶を使用しているメーカーがありますが、通常の金属製の缶を使用している場合
内側に錆びないようにコーティングが施してあるので、金属製の攪拌棒ではコーティングにキズを付けてしまい
トラブルが起こります。
■攪拌棒も水性塗料と溶剤型塗料の併用は出来ません。
■塗料をスプレーガンに入れる際、使用するペイントストレーナーは水性塗料対応のものを使用して下さい。
溶剤型塗料に使用するストレーナーの糊は溶剤には溶けませんが、水には溶けます。
■塗料の保管は20℃で保管するのを基準に 5℃〜35℃の範囲内で保管して下さい。
気を付けないと 0℃を下回ると凍結します。一度凍結するとゲル化して使用出来なくなります。
■水性塗料だからと言って塗りにくいと思い込まない。
■温度よりも湿度が重要になってくる。(乾燥速度は湿度により変化する)
※上記の注意事項から言えることは、水性ですので「水」の性質を良く理解することと、今までの塗料とは全く異なる塗料なので、スプレーガンや攪拌棒など機材の併用が出来ない事と水性対応の資材(水性の脱脂剤など)を使用する事が上げられます。当然、混ぜる事も出来ません。
■調色について■
今回、調色する機会はありませんでしたが、塗料メーカーのデモンストレーターの方にお話しを伺うことが出来ました。まず、溶剤型の塗料と比べ、乾燥時間が違うので調色においても色の昇り方が違うようです。しかし、溶剤型の塗料と比色する訳はないので、調色時には充分乾燥させてボディーと比色することが重要ですとおっしゃってられました。水性塗料の調色に関しましては、気になる部分ですので、近いうちに調色する機会を作って、その結果をレポートしようと思っています。
■実際に塗ってみました■
水性塗料は、現在主流の溶剤型塗料と何が違うのか、実際に塗ってみました。まず違うのは、当然ですが塗料からの鼻を突く様な刺激臭がありません。イメージしやすいのは、皆さんが小学校で使っていた絵具のニオイが一番近いのではないかと思います。それと粘度ですが希釈前の塗料は、かなりドロッとしていました。希釈すればサラサラした感じになりますが。
調合して希釈剤(専用の水)で希釈されたものをスプレーガンに入れて塗装しますが、
スプレーガンの設定(吐出量、エアー圧力)は溶剤型とほぼ同じです。ですので実際に塗ってみても、「溶剤型の塗料と塗り方は変わらない」と言うことです。その辺は塗料メーカーも水性塗料に移行しやすいように考えて造っているのではないかと考えます。
塗布した直後は、水滴のように表面張力でポツポツと粒が大きい感じがしますが、乾燥すればその感じも無くなります。水性塗料だからと言って色の染まりも悪くなく、感覚的には、溶剤1液型ハイソリッドとほぼ同じで、成分が溶剤か水かの違いだけです。色が染まればムラ取りをして、後はクリヤーコートをするだけで、特別違うところはありませんでした。ただし少し違うのは、水性塗料の弱点とされている「乾燥」です。水性塗料を塗る理想的なコンディションは、気温20℃〜30℃、湿度30%〜60%の範囲内がベストとされています。湿度が60%を超えると極端に乾燥が遅くなり、エアブローなしでは、まず乾燥しなくなるということです。
そこをカバーするために「エアーブローガン」と言うガンを使用します。これは、エアホースに接続して使用し、エアダスターの強力版だと思ってもらえば良く、スプレーガンでエアブローするよりも沢山のエアーを供給でき、なおかつ広面積を効率よく万遍なく乾燥させることが出来ます。「エアーブローガン」は当たり前ですが水性塗料専用ではなく、様々な用途に応用が利き、溶剤1液型塗料の乾燥に使用すれば、作業効率アップ、「中膿み」などのトラブルを防止することが出来ますので、オススメできます。ですので、この「ブローガン」を使用しエアーブローすれば、「乾燥」の遅さは充分カバー出来ます。
僕が塗装した時のコンディションは、気温17℃、湿度35%でしたが、それほど「乾燥」が遅いと言う感じはありませんでした。でもやっぱり水性塗料を塗布した後はエアブローが重要で必要不可欠になります。作業手順は溶剤1液型と同じですので、新しい工程が増える訳ではありません。水性塗料をどうやって効率良く、乾燥させてやるかを考えて行けば問題は解決するはずです。
■塗装して気がついたこと■
■脱脂は水性の脱脂剤を使用する。
■水性塗料は溶剤型塗料と違い、乾燥すると上から重ね塗りしても下を溶かして馴染まないので、
塗布する時は注意する必要がある。(極端にガサついたりしないように)
■水性なので、静電気が起こりにくく、ゴミが付着しにくい。
■溶剤1液型に比べ、乾燥がゆっくりなのでボカシ塗装の場合、ガサつきにくい。
■ゴミ等の付着した場合の中研ぎは、水性なので空研ぎで行なう。
(当然と言えば当然で、水研ぎすれば塗料が溶け出します)
■水性塗料は塗料自体が柔らかいので、出来る限り膜厚は薄くする。
(厚塗りしてしまった場合、クリヤーコート後、硬化しても柔らかい(スポンジー)状態になることがある。
■スプレーガンの洗浄は専用の水性ガンクリーナーを使用する。また、洗浄の廃液は凝集剤を使って分離して処理する。
■洗浄後の廃液は下水に流すことは出来ない。
(専門業者に依頼する)
■防毒マスクは水性塗料でも塗装時にはする必要がある。
■水性塗料は、塗りにくい、使えない塗料ではなく、溶剤1液型塗料と塗り方は変わらない。
■水性塗料をポジティブにとらえることが鍵■
自動車補修用として水性塗料は、使用しているユーザーはまだ少ないのが現状です。しかし、近年の地球環境の情勢から考えると、このまま従来の溶剤型塗料を使用していけるとは限りません。
現在、水性塗料が普及しない理由の一つに、塗料の買い替えにコストが掛かると言うことが挙げられます。また、そのほかにもうひとつ理由があるように思います。現場の本音は、「せっかく1液型の塗料に慣れたのに、また1から新しい塗料の使い方を覚えないと‥・」ということです。
塗装屋さんにとって塗料を替えるというのは、とても大きな決断がいります。塗装屋さんは塗装のプロですから、当たり前のように作業されていますが、たとえば、トラブルが起こった場合の対処法や、原色の特性を覚え、イメージ通りに調色出来るようになるには、プロであっても時間がかかるものです。僕も塗装を仕事としていたので、気持ちはよくわかるのですが、塗料を替えることには、つい消極的な気持ちになってしまいます。
けれども水性のユーザーがまだ少ないうちに、いち早く水性塗料を導入し、塗料の特性を自分のものにしてしまえば、水性塗料が普及したころには、競合他社にたいして、大きなアドバンテージになることは、ほぼ間違いありません。
さらに、会社の営業施策として「水性塗料導入工場」を積極的にアピールすることも可能になります。
(技術・久保田) |